松下電器産業 代表取締役専務の坂本俊弘氏
松下電器産業 代表取締役専務の坂本俊弘氏
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 「第5工場のメインは42型になるだろう」――。松下電器産業 代表取締役専務の坂本俊弘氏は2008年2月5日に開催した同社の事業戦略懇談会で,PDP第5工場では42型パネルを中心に生産する考えを示した。PDP第5工場は,2009年5月の稼働を目指して兵庫県尼崎市に建設を進めている。

 今回の懇談会では,ボリューム・ゾーンとなる42型PDP(フルHD対応)のさらなるコストダウンに向けた取り組みを幾つか示した。まずは,第5工場に採用するガラス基板である。42型パネルを16枚取りできる2280mm×3920mmのガラス基板を導入することを,今回初めて明らかにした(Tech-On!関連記事)。第5工場の計画を発表した当初は,42型パネルの10枚取りを実現すると説明していたが,コストダウンに向けてより生産性を高める選択をしたことになる。

 もう一つが,42型フルHDパネルのシングル・スキャン化による材料費削減である。坂本氏はこれらを踏まえ,42型フルHDの領域において,液晶に対して同社のPDPにコスト優位性があることを繰り返し主張した。「PDPの雄」を自負する松下電器らしいアピールである。

液晶テレビはIPSにコスト優位性と主張

 ただし,こうした主張は自らの首を絞めかねない。42型は,近い将来,松下電器がPDPテレビと液晶テレビの両方をラインアップする可能性がある画面寸法であるからだ。同社の液晶テレビは,現在は最大37型であるものの,「今後は40型台も視野に入れる」(同社の大坪社長)と明言している(Tech-On!関連記事)。このため,2009年度の生産開始に向け同社らが建設予定の液晶新工場は,40型台パネルの生産も意識したものになるとみられる。なお,今回の懇談会の時点では「液晶工場の詳細は決まり次第発表する」(坂本氏)としており,採用するガラス基板などは正式には明らかにしていない。

 PDPと液晶で同じ画面寸法のテレビがラインアップされれば,さまざまな点で比較されることになる。その最たるものが,価格(コスト)といえるだろう。

 松下電器は,液晶に関しては同社が生産予定のIPS方式パネルの方が,シャープなどが生産するVA方式のパネルに対して材料コストで優位性があることを,以前から主張している。「IPSの方がパネルの透過率が高いため,バックライトや光学シートなどの部品が少なくて済む」(大坪社長)という理屈である。今回の懇談会でも,同様の主張を坂本氏が繰り広げた。

すると,PDPとIPS液晶では…

 では42型において,コストダウンを進めた同社のPDPと,IPS方式の液晶パネルでは,どちらにコスト優位性があると考えているのだろうか。この記者の問いに対して,坂本氏は次のように答えた。「液晶で42型を生産するとはまだ言っていないので,比較は難しい。ただし,42型のVA方式の液晶と比べれば,我々のPDPの方にコスト優位性がある」――。

 今回の懇親会は,尼崎のPDP第4工場の見学会とセットになっているなど,「PDPのアピール」という趣が強かった。しかし今後,従来通りにPDPのアピールがあまりに目立ち過ぎれば,特に液晶とラインアップが並立する40型台では消費者の混乱を招くおそれもある。一方では,約2800億円を投資するPDP第5工場の建設が始まった今,PDPに関しても後に引けないのも事実。「両方を持てるもの」のジレンマは,しばらく続きそうだ。